ふじみクリニック

ナズナの海と春の色

2022.04.12


[2022/4/7 中里]

 
本格の暖かさが訪れ、草花も木々も一気に色を濃くして、わが世来たりと謳歌しているようです。春の色といえば真っ先に思い浮かぶのは桜花の淡いピンク色。寒く厳しい季節を越え、ごつごつと乾いてひび割れた樹肌から、いきなり芽吹いて花開かせるのが桜の特徴です。ほのぼのと温みのある色彩の花々は、新しい季節の始まりを確かに知らせてくれます。

梅から始まって、ハク(モク)レン、桜、桃、そしてハナミズキ ― 華やぎと解放感を印象づけるこれらの花々はもちろん春の代名詞のような色彩の持ち主ですが、地を蔽う草花も季節の変化をずっしりと体感させてくれます。上掲写真は日頃から見慣れているナズナです。ぺんぺん草とか三味線草という名前の方を先に覚えたものですが、若葉は食用になり、春の七草のひとつに数えられています。古来生薬としても用いられ、開花期の全草を引き抜いて天日乾燥したものを、薺(せい)・薺菜(せいさい)と称し、利尿、解熱、止痢などの薬効があります。痩せた土地でもたくましく群生し、空き地を埋め尽くした様相は、まるで緑の海。春風に吹かれて揺れる姿も漣のようです。近づいて目を凝らすと、4枚の花弁を持つ小さな白い花は清楚で可憐です。花は先端部に咲き、その下の茎に輪状に突き出した小さなハート型の構造物は花が終わった後の実です。


[2022/3/17 柳瀬川河畔]

 

少し前の撮影になりますが、早春、ぺんぺん草と競うように群生するのは、「ホトケノザ(サンガイグサ)」です。盛りの時期には、何もなかった茶色い空き地をピンクの絨毯を敷きつめたような情景に変化させ、通行人の視線を奪います。もっともこの草はナズナと違って食用にはなりません。春の七草とは「セリ・ナズナ・ゴギョウ・ハコベラ・ホトケノザ・スズナ・スズシロ」ですが、ここに含まれる「ホトケノザ」とは、「コオニタビラコ」という別の植物です。こちらはミニたんぽぽのような小さな黄色い花を咲かせ、その葉が放射状に広がる姿から仏様の連座のようだということで、昔はそう呼ばれていたのです。

荒れはてた土地でもたちまち仲間を増やすナズナとホトケノザ。春先の雑草というのはたやすいけれど、彼らのたくましさを真似ることは途方もなく難しい。