ふじみクリニック

季節の変わり目とメンタルヘルス

2022.04.09


[2022/4/6 上清戸]

 
4月に入って数日の季節外れの夏日の後、桜花が風に舞い、野に山に街中に色彩豊かな花が咲き乱れる季節になりました。畑は整地され、間もなく本格的な種蒔きや植え付けが始まります。

3月、4月には、卒業、入学、就職など花見気分にふさわしいイベントが重なりますが、幸先良い結果を得ることができた人でも、新たな環境への適応努力がひとしお必要な時期です。一歩間違えば疲弊し、燃え尽きかねないあぶない時期だともいえます。長引くコロナ禍によってリアルな対人関係が希薄になりがちだった数年を経て、いきなり営業やら接客やら様々に複雑な対人関係を要する仕事に入らなければならない職に就いた人は、なおさらでしょう。

それ以上に、学生なら、卒業見送り(留年、落第、退学)、大学進学失敗や就職浪人、サラリーマンならば、左遷降格など負の結果にさらされる人も少なくありません。加えて気温や天候の変化が大きく、自律神経系の乱れが生じやすいので、心理社会的要因と生物学的要因双方を見据えて、私たちはこの時期を丁寧に切り抜けなければなりません。

「春眠暁を覚えず」という唐詩の一節をご存じの方は多いと思われます。この詩に書かれているのは、「春の夜は寝心地がよく、夜が明けたことに気づかずにたくさん寝てしまう」といった意味のことです。しかし実際には、日々の大きな寒暖差や変わりやすい空模様をもたらす気圧変化に対応するために、私たちの身体は自動的に交感神経優位に活動します。その結果、緊張感が高まりやすく、睡眠リズムも狂いがちとなります。気圧の小刻みな変化はまた、平衡覚をつかさどる諸器官に負担をかけ、めまいや頭痛の要因にもなります。「たくさん眠れる」という現象が事実だとすれば、こうした自律神経系の乱れや生活環境の変化によって心身ストレスが高まり、疲弊状態から回復するためにはあえて副交感神経を活性化させ、「たくさん眠ることが必要な季節である」というのが実相かもしれません。さらに、今や日本人の半分くらいが発症し、国民病と言われるようになった花粉症の症状や治療薬による眠気なども重なっているでしょうか。

自律神経のバランスを取り戻し、変化の多いこの季節を乗り切るためにはどのようにしたらよいでしょうか。実のところ、これまで本欄で取りあげた食事、睡眠、適度な運動、生活時間の不規則性を減らすなどの当たり前の勧奨事項をもう一度繰り返すことになります。

そんなのわかりきったことだと思われる人は、まず自分のこの1週間の生活ぶりを大雑把に振り返ってみてください。睡眠時間、食事時間、残業時間などを書き抜くだけでもよいでしょう。日々少なくとも6時間以上の睡眠が取れているか、欠食/インスタント食品のみの食事/夜間の過食傾向などが続いていないか、30分から1時間程度の運動時間/週に1~2回などが習慣づけられているか-などについてチェックしてみてください。

新しい環境のなかで「自分のペース」を自覚し、守ることは簡単ではありませんが、自分が対応すべき事柄の優先順位を熟考し、一つ一つ丁寧に対処していくことが肝心です。自分がなすべきことと思い定めたら、他の人にはどのように見えるだろうかということを考えすぎないこと、評価は後で勝手についてくるもの、などと開き直ることができたらしめたものです。