2022.03.10
こちらは先週末に遭遇した通勤途上のワンシーンです。
啓蟄とは二十四節気の第3。二月節(旧暦1月後半から2月前半)。「啓」は「開く」、「蟄」は「虫などが土中に隠れ閉じこもる」ことであり、「啓蟄」とは「冬籠りの虫が這い出る」(広辞苑)という意味であり、春の季語にもなっています。現在広まっている定気法(太陽の視黄経を角度で24等分する方法)では、太陽黄経が345度のときで、今年は3月5日頃。期間としての意味もあり、この日から次の節気の春分前日(3月20日)までとされます。
解説にはそのように書いてありますが、要するにまだ空気が冷たくても、植物や地中の虫たちは春の訪れを実感し、いよいよ動き始める時節のことです。今冬は寒い日が多かったという印象がありますが、最近30年くらいを見ると、平均気温は確実に上昇しています。自然変動プラス人為的変動の結果であり、人為的変動とは、言うまでもなく、際限のない経済成長を諦めきれない我々人間が消費するエネルギー量増大の証しでもあります。
つまり冬季や早春の暖かさは、地球にとって必ずしも喜ばしいことではないのですが、菜の花が咲き、木の芽が膨らんで、ハクレンがぽっかりと大きく花開くのを見て心浮き立つのは人の性といえるでしょう。無彩色だった森や林や通りの軒先に梅が咲き、レンギョウの黄色が鮮やかに街を彩るのですから。
とまあそんな気分で車を走らせていたら、清瀬への通勤路、信号待ちしていると菜の花畑の方からのそりと蛙。
小柄ですがたぶんウシガエルのようです。その前日は朝から10℃近くあり、燦燦と降り注ぐ朝陽を浴びて畑の濡れた黒土からは陽炎が立ち昇っていたので、よほど蒸れたのかもしれません。横断歩道をのっそり、ゆっくり、這っています。上空から獲物を見つけたのか、カラスが2、3回旋回して蛙の後ろに降り立ちました。近寄って嘴で何度か蛙の身体を小突いたあと、後ろ足をぱくりと咥えました。起床したばかりで動きが鈍い蛙は、されるがままです。
信号が青に変わる。後続車は少なくないけれど、車をゆっくり進めて接近したところでクラクションを何度か派手に鳴らしました。カラスは蛙を咥えたまま、こちらを振り向き、2、3歩右往左往しましたが、あきらめて蛙を解放し、飛び立っていきました。じっと身体をすくめる蛙君の横を通り過ぎてから後ろを見ると、他の車も蛙をよけて走っているように見えます。
その後蛙君が、横断歩道を無事に渡りきることができたのかどうかわかりません。
啓蟄のなほ鬱として音もなし 加藤秋邨