2021.08.10
現在自分がさらされているストレス状況を分析し、個人の能力との均衡を図ることが心身の健康増進をめざす際の課題といえるでしょう。
1)個人の対処
ストレッサーへの対処の方策(コーピング・スタイル)は、以下の表のように類型化できます。一般的に、一種類の対処法だけを硬直的に常用する態勢では適応が破綻する可能性が高まります。予め自分が採用しやすい対処形式を自覚し、周囲の助言を得ながら、状況に応じて別の対処を試みることがストレスへの耐用力を増大させます。
ストレッサーへの耐用力は、職務への満足度や個人の自覚的な人生設計との関連においても変化します。ある目的のために負荷されたストレッサーを処理することが不可欠であるのか否か、自己評価してみます。将来の希望の実現のためには乗り越えることが不可欠だという自己認識は、一般に「やりがい感」を高め、その人のストレスへの耐性を増大させます。また、自己の能力、現在さらされているストレッサー、その結果生じている疲労度、そしてそのストレス状況を克服する個人的な意味や動機等についての「自覚」が重要と考えられています。
ストレッサーの例→ 対処形式↓ |
恋人にふられた | 家族など大切な人が重病であるという知らせを受けた |
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問題そのものに向かう problem-solving / task-oriented |
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他者に援助を求める social support / help-seeking |
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その出来事に対する意味づけを変える cognitive reappraisal |
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自分を良い状態に保つ Relaxation |
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問題を避けたり否認したりする Avoidance |
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ストレスへの対処(coping style)
2)組織の対処
特定の職場やポストにおいて高い離職率や受診率が持続して認められるときは、ストレス状況が構造的に潜在する可能性を考慮しなければなりません。各メンバーが曝されているストレッサーの質および量を評価し、スタッフや職務の再配分を試みます。職場における心理的ストレッサーは、ほとんど対人葛藤状況に根ざしているので、公の職場内ミーティングや職場と連動したカウンセリング・システムの場では、真のストレッサーは表面化しにくいということも知っておくべきでしょう。
管理者は、自ら精神科や心療内科へ受診するスタッフについては、人事上不利な処遇をしないことを原則とする、すなわち精神科受診閾値を下げる人事上の意識改革が精神保健向上のためにきわめて重要と言えます。職場の医務室や保健管理室には、身近な部内外の相談機関、精神科診療機関、アルコール依存症等嗜癖的病態に関する自助グループ等の情報を十分に用意しておき、広く掲示する努力も重要となります。
ストレッサーが心身に加わり、私たちの抵抗力がその有害性を完全に解消することができないと、様々のストレス状態が生じます。私たちは美味しいものを食べたり、仲間と語り合ったり、旅行したりしてストレスに陥ったわが身を休ませ回復する試みを日々行っています。そうした対処法をなるべくたくさん日頃から用意する努力が重要です。
けれども、ストレッサーがあまりに強度であったり、長く続いたり、複数のストレッサーが同時に加わったりすると、大抵の人ではそうした自己対処の試みがうまくいないまま、様々の心身の症状が表面化します。
大切なことは、自分が今どのようなストレッサーにさらされているのか、それに対して自分はどのような対処を実際に行っているのか、そして、自分にはどのくらい余力が残されているのかを振り返って自覚することです。
それらが自分ではどうもわからなくなったとき、職場や学校に行くのはつらいけれど、何がどのようにつらいのか他の人に説明も難しいと感じたとき、それは心療内科や精神科に相談に行くべきタイミングだといえるでしょう。