2021.12.05
[2021年11月 落合川いこいの水辺]
11月も終わろうとする日の夕刻に、友人と清瀬で会う約束をしました。小さな窓から覗いた高く青い空とあたたかな陽射しに誘われて、少し早く行って最近滞っていた清瀬周辺の散策を愉しもうという気になりました。清瀬周辺には、柳瀬川、黒目川と落合川の3本の川が流れていて、後二者は東久留米市に属しますが、このクリニックからでも黒目川までは15分くらい、落合川までは30分も歩けばそれぞれの河畔に到達できます。
今春、桜の季節の休日に黒目川沿いの遊歩道を散歩して、とてもきれいだったと地元に住むスタッフに話したことがあります。彼女は、「そうです。ここら辺の川は住宅街を縫うように流れていますが、下水道も整備され、周辺住民の努力もあって、鮎が上がってくるくらいなんですよ。」と少し自慢げに答え、「でもね、黒目川より少し下った落合川の方がずっと澄んだ流れです。」と教えてくれました。それを思い出し、いくらかの遠出を試みたのです。
後で調べたことですが、落合川は、南沢湧水群、竹林湧水など多数の湧水が集合した川です。武蔵野台地には水が浸透しやすい関東ローム層が堆積しており、雨水は台地地中の礫層を通って見えない流れを作っています。ネットから拝借したグーグル提供の東久留米市の標高図を見ると、落合川と黒目川は武蔵野台地を走る谷のような地形となっていることがわかります。
二本の川は、西北方面(青梅市-武蔵村山-東村山)から礫層を流れてきた地下水があちこちから地表に湧き出して生まれた川だというわけです。黒目川も、現在は小平霊園内に位置する窪地に発する湧水を源としていますが、湧水量が年間を通じて落合川流域の方がはるかに多いらしいのです。この落合川は4kmほどの清流を成して黒目川と合流し、新河岸川を経て最終的には隅田川から東京湾に流れつきます。
黒目川と同様に両岸には遊歩道が整備されており、浅く、幅も狭い川ですが、確かに清澄な流れです。処々に「湧水口」と記された標識があり、川底からもゆらゆらと湧水が立ち昇るのがわかります。この流域の湧水量は一日約1万トンに達するという説明書きの看板があり、一部は採水されて水道に使われているということです。
毘沙門橋の上から透明な流れとその中を揺らめく水草を眺めていてるうちに、時が止まったような心地に浸りました。水底の石くれや窪みに呼応して小さく盛り上がったりへこんだりする水面や水草の動きは一瞬も同じ形ではありません。流れも時も動いているはずなのに、心は奇妙な静けさの中に留まっています。流れにたゆたう大柄の朴の落葉の上にからだを縮めて乗ることができたら、それはどんな気分だろうなどと他愛ない空想に身を任せていると、知らぬ間に陽は傾き、水面からの眩しい反射に目が射られて現世に戻りました。東久留米から友人と待ち合わせた清瀬駅に戻るのは上り坂の行程です。だからこその湧水というわけですが、約束した時間が間近いのに気づき、速足から小走りになって、坂道を登り切り、ようやく約束の時間の五分前に帰り着きました。清々しい湧水を眺めた後は、思わぬ晩秋の汗かき体験となりました。