ふじみクリニック

強迫性障害/強迫神経症について

2021.12.06

強迫性障害*とは

 強迫性障害*とは、強迫観念と強迫行動を主徴とする病です。
 様々な生活上のことに、ふとした不安感が生じて何度か確認してしまうといった行動は、ときには多くの人が経験するものですが、通常は、そのために本来なすべき行動ができなくなってしまうほどではありません。一方、強迫観念や強迫行動が執拗に反復・持続し、日常生活に種々の程度に支障をきたすような状態に陥っているときには、強迫性障害という診断が該当するということになります。

*かつては「強迫神経症」と呼ばれており、最新の診断基準(ICD-11)では「強迫症または関連症群」として不安障害とは別のカテゴリーを与えられていますが、いずれも同じ病態です。

強迫観念

 強迫観念とは、通常ありえない事柄や状況が生じるのではないかという考えが頭を離れず、不安や恐怖感に囚われ、自らそうした考えは不合理であり、実際に起こるはずがないとわかっていても、その考えやイメージが反復的に生じるものです。例えば、どんなに慎重に運転していても誰かを轢いてしまうのではないかという考え(加害恐怖)がわいてきたり、ドアの取っ手を触ると何か病原体に感染してしまうような気がして(不潔恐怖)手袋を外せないなどがよく見られます。

強迫行動

 また強迫観念を打ち消したり不安・恐怖感を解消するために、一見無意味と思われるようなことを何度も繰り返す行動(強迫行動または儀式的行動)も見られます。具体的には、何度も確認したにもかかわらず、家から出てわずかな距離しか離れていないうちに、ほんとうに鍵をかけたかどうか自信がなくなり、不安にかられて家に戻って確認することを繰り返したり、汚物を触ったわけでもないのに、何時間も手を洗い続けたり、右足から前に出して歩き始めないと何か不吉なことが起こる気がして、歩き始めるときにぎこちない動作が見られること等々です。
 強迫行動の際に、自分一人でそれを行う場合と、人に手伝わせたり同様の行動を取らせないと気が済まない場合(巻き込み型)があります。母親やパートナーに手洗いの後本当にきれいになっているかチェックさせるとか、確認行為を自分が決めた回数だけ正確に行ったか傍にいて数えさせようとするとかなどです。こうした場合は家族全体が疲れ切ってしまいがちです。

疫学と遺伝性

 強迫性障害は10~20歳代など若い世代に発症することが多く、生涯有病率は推計0.5~2%とされています。つまり決して珍しいとは言えない病です。またうつ病や統合失調症など別の精神病性障害や、自閉症など発達障害の部分症状として強迫症状が現れることもあります。
 強迫性障害の遺伝性について確定的なことはわかっていませんが、強迫性障害の患者さんの家族に、強迫性格傾向や重篤とは言えない程度の強迫症状を持つ人が見られる率が高いという多くの知見があります。しかし現在のところはっきりわかっていない「原因」を探るよりも、精神科に受診して治療を始める方が有意義といえるでしょう。

治療

 幸いなことに、最近では薬物療法が一定の効果を示し、軽症~中等症の患者さんではそれだけですっかりよくなってしまうこともあります。しかし薬をのむこと(異物を身体の中に入れること)に強い不安を覚える人も少なくありません。病の性質や経過、様々の治療法に関する心理教育を通じて、本人と家族の理解と治療動機を深めることも重要です。
 さらに、系統的な認知行動療法の有効性が知られていますが、こちらについては全ての医療機関で実施しているとは限りません。いくつかの治療を試してなかなか症状がよくならず、より専門的な心理(精神)療法を受けたいと思う場合には、事前に医療機関に問い合わせておくとよいでしょう。
 いずれにしても、この病は、時間がかかることはありますが、大抵の場合は『治る病気』であり、難治の場合でも症状を軽くすることは可能な病気です。自分や家族にある程度の強さの強迫症状が見られた際には、丁寧に話を聴いてくれる医師やカウンセラーに相談して、その人に合った治療を組み立てていくことが大切です。