2022.01.03
「インターネット社会」と呼ばれて久しく時が経ちました。レストランや居酒屋を選ぶのに、そのメニュー、設備や雰囲気、費用などをネットで調べて予約することは当たり前になってきています。それとまったく同様に、病気や医療機関に関する情報にも、今やインターネットを介してアクセスすることが非常に多くなってきました。医療機関がホームページ(HP)などで自ら発信している医師の略歴や診療内容を確認し、その医療機関への口コミ情報までチェックして、HP上の窓口から初診予約することも日常的となりました。
日本では2013年以降、人口比で80%を超える人々がパソコンやスマートフォンで毎日のようにインターネットを利用しています。平成後半期に生まれた人なら、小学校高学年生になる頃にはネット使用が日常的ツールとなっていたわけですから、インターネット上に現れた多種多彩な情報群の正確性や信憑性に関する識別力(インターネット・リテラシー)をそれなりに備えていることでしょう。しかし、本人や家族が精神科や心療内科への受診を考慮している場合、様々のストレス状況に置かれ、不安や焦りにかられて、ふだんの冷静な評価判断が難しくなってしまうことも少なくはないでしょう。
そこで今回は、「こころの病」に関する信頼できるネット情報源をいくつか紹介して、それらの特徴を概観してみたいと思います。下記に記すのは、あくまで筆者の個人的意見ですが、概ね次の基準を満たしたホームページです。
まず、内容豊富な大きなサイトとして、厚労省の「みんなのメンタルヘルス」があげられます。
ここには5種のタブ(画面上欄〈HPによっては右か左の縦欄〉に一列に設定された「章立て」みたいなもの)があります。例えば個別的な病の特徴や診断的な事項については、2番目の「こころの病気を知る」というタブを開くと、「依存症」から「PTSD」まで12種類の病について簡略な解説があります。受診先を探す際のガイダンスは、3番目のタブ「治療や生活へのサポート」に記載されています。
特筆すべきは、5番目のタブ「その他」です。タブを開くと、外国人のための受診案内を6か国語に翻訳したリーフレットが得られるという点です。知人・友人や職場の同僚に外国人が含まれることも珍しいとは言えない昨今ですから、参照する価値は大きいといえるでしょう。
他にも厚労省のHPをあれこれ見ると、「精神障害の労災補償について」と、「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」の二つが目に留まりました。
前者では、様々の形をとるハラスメントを含む職場ストレスの解説や労災認定基準が挙げられており、不幸にして自死に至ったケースへの対応や訴訟に関する現況を理解する一助となっています。もちろんここに記載された諸事項は、現在の「国の考え方」のようなもので、医学的にも社会的にも完全なものとは言えず、今後変化する可能性は十分あるでしょう。
後者は、「精神・発達障害についての正しい知識と理解を持って、精神・発達障害のある方を温かく見守り、支援する応援者(=サポーター)となっていただけるよう実施している『精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座』のe-ラーニング版教材」と銘打ってあります。最近はハローワークなどでもよく耳にする「障害者枠」という名称はあまりよい響きではありませんが、障害のある人が自立を目指し、社会に出て働きやすい職場環境を整備することは大切な課題です。しかし発達障害、知的障害や何らかの精神障害を有した人々が、一般就労に近い環境で職務を全うするための支援者は不十分と言わざるを得ません。この「教材」から得られるものは、職場や地域社会が、障害を持った人々が潜在的に持っている豊かな力と障害による弱点の双方を理解し、誰にとっても住みやすい社会をつくるために、市民全てがわきまえておくべき知識と言えるかもしれません。
最近では、精神科に限らず多くの医療系学会が、市民啓発のための素材をネットから提供しています。精神科領域では最大の日本精神神経学会のホームページでは、「見解・提言/声明/資料|Advocacy」のページが参考になるでしょう。ただ、このサイトは主に研修医や実地医家を主対象としており、学術的正確性と先端性を重視した設えとなっていますので、全く知識のない人にはいくらか読みにくいかもしれません。
日精協は、私立の精神科病院を中心として昭和24年に設立された協会です。日本の精神科医療の歴史の中には、多くの不幸な事件や患者さんへの不適切な処遇が見られました。しかし何度も行われた制度改革や患者団体・医療者の継続的努力によって、最近30年ほどの間に施設も診療システムも大きく改善されてきました。
このホームページ(「精神科医療ガイド」)の解説項目とその内容は厚労省の記事とあまり変わり映えしませんが、精神科診療所(クリニック)と入院施設である精神科病院それぞれの特徴や役割の相違点を理解するためにはよいサイトです。「メンタルヘルス啓発ビデオ」も見やすく、参考になります。
この学会のホームページには、「一般の方々へ」と明示した知識提供タブがあります。うつ病および躁うつ病(双極性障害)に特化した学会ですから解説項目は多くありませんが、罹患患者さんの数は多い病です。「うつ病Q&A」では、7つのよくある質問に答える形で解説されています。少しバラエティが不足しているので、もう一つの「資料」に掲載された情報の方が有用度は高いかもしれません。
以上の他にも多数の良質のサイトが見つかります。製薬企業のホームページなどには正確性が高い最新記事が結構豊富に掲載されていますし、「家庭の医学」といった名称の総合的サイトでも参照できる記事は多くあります。しかし誰によって運営されているのか(運営費用の出所)がはっきりしないサイトについては、あえて取り上げませんでした。受診前に知っておいた方がよい通常の知識については、冒頭の厚労省ホームページでほぼ網羅できるのはないかと思われます。
こうしたネット情報で下調べして、現れてきた症状を自覚し、自分に合った医療機関や治療法を探索することは、もちろん有意義なことです。しかしもう一つ大切なことは、一人で調べ過ぎず、すべてに自己対処しようとせずに、まずは身近な医療機関へ相談を持ち込むタイミングを見失わないことでしょう。