ふじみクリニック

大人の発達障害

2022.08.11


[2022/08/11 所沢市 航空公園]

発達障害とは

発達障害とは、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから感情の動きや物事の捉え方、そして行動のパターンに特徴がある状態です。その特徴のために、親(養育者)の方は「ほかの子と違うのはどうしてなのか」、「子どもの気持ちがわからない」などと悩んだり、子どもの側では成長するにつれて様々の生きづらさを抱えてしまいがちになったりします。

発達障害には、①自閉症スペクトラム症(ASD)、②注意欠如・多動症(ADHD)、③学習症(LD)、チック症、吃音などが含まれます。(「~症」という呼び方は、WHOによるICD-11(国際診断基準)の日本精神神経学会による最新の日本語訳であり、これまでは「~障害」と訳されてきました。)それぞれの障害は重複することもあり、様々の程度の知的障害を併存することもあります。①、②、③をごくおおまかに示すと以下の図のようになりますが、詳細は厚労省HPなどをご参照ください。

主な発達障害の中心的症状
図 主な発達障害の中心的症状
 

発達障害をもっていても、その人の独特の感じ方、物事の理解の仕方や行動特性がどのように多数派の人々と異なっているかを本人が自覚(学習)し、家族や周囲の人も理解を深め、それに応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することによって、その人の持てる力を十分に発揮し、人づきあいの苦労を軽減することは可能です。

ここでは、障害の程度が軽く、子どもの頃は何となく周囲に適応してきたために保健医療につながらなかった「軽度発達障害」について、プライマリ・ケアの立場から簡単に触れてみたいと思います。一点注意しておきたいのは、発達障害が「軽度」だからといって、その人の生活上の不便や苦悩も軽いというわけではないということです。その人の置かれた環境や人間関係によっては、原因がわからないまま抜け出せない不適応状態が深刻な精神状態につながる恐れは決して小さくないのです。

大人の発達障害の診断は難しい

成人期(概ね18歳以上)に何らかのきっかけがあって、発達障害ではないかと本人あるいは周囲の人が心配して医療機関を訪れた場合、彼(女)らは幼小児期に診断される発達障害の人のように一般的な診断基準を十分には満たさないことが多いものです。子ども時代からの発達歴を聴取しようにも、家族の記憶が既に曖昧化していることも多いので、診断評価の拠り所が得にくいとも言えます。とりわけ小児期に大人しく成績良好だった人であったり、そこそこの友人関係が維持できた人(女性が多い)ならば、軽度の発達障害特性は周囲から看過されやすいと言えます。そのため、治療経過における直接の関与観察所見を積み重ねながら診断を精密化していかなければなりません。

医療の側の問題も大きくあります。わが国の医学校の精神医学の教育プログラムに「児童精神医学」の項目は含まれていますが、大学病院で児童・青年期(思春期)精神科を標榜した発達障害専門の診療科(相談窓口)を備えたところはごく僅かであり、研修の場は限られています。大学病院以外でも、発達障害の専門的診療施設は数が少なく、予約を取ろうとしても数か月以上待たされることが珍しくありませんし、遠方にあって継続的な通院治療がしばしば難しいのです。市中の精神科・心療内科クリニックの看板に診療対象として「発達障害」が掲げられていても、自己記入式問診票を用いた簡易スクリーニング程度しか実施しない施設が多く、本来不可欠な家族からの発達歴聴取などを行っていないため、正確に診断できないという事情もあります。

発達障害の併存症候群

さらに問題を複雑にしているのは、成人期に初めて医療機関の門をたたく発達障害の人のほとんどは、不安、うつ状態など何らかの一般的精神症状を示しているために、うつ病や神経症の診断の下に漫然と薬物療法等が続けられていることがままあるということです。例えばうつ状態を呈している場合、そちらの治療だけを続けても改善しないのに、生活史/発達歴を聴取されることなく、「難治性うつ病」や、「性格の問題」などとレッテルを貼られ、適切な治療的支援につながらないことが、わが国ではまだ多いかもしれません。

発達障害の人が陥りやすい不安・うつ・適応障害等は、友人関係や学校生活、職業生活においてそれぞれの障害特性のために周囲とうまく関係が取れなかったり、悩みごとを相談する相手を探し当てられなかったために失敗体験が繰り返され、自己評価が大きく下がってしまうことが主な要因となっています。こうした人の場合には抗不安薬や抗うつ薬などの薬物療法は副次的な治療手段であり、適切な心理教育、家族や職場の調整、対人関係スキルの向上を企図した精神療法などが治療の本筋となります。

発達障害の専門診療施設

以上のように、まずは正確な診断が何より大事ですから、思い当たる節のある人は、発達障害の診療経験豊富な専門医療機関に一度は訪れて、きちんとした診断を受けることが大切です。

「成人発達障害支援学会」のHPから、大人(概ね18歳以上)の発達障害を診療する都内の医療機関を転載しておきます。いずれも予約が必要ですので、それぞれの医療機関のウェブページをご参照ください。

*NTT東日本関東病院 (品川区)
*錦糸町クボタクリニック (墨田区)
*研精会 稲城台病院 (稲城市)
*研精会 東京さつきホスピタル (調布市)
*小石川東京病院 (文京区)
*昭和大学附属烏山病院 (新宿区)
*平川病院 (八王子市)