ふじみクリニック

たそがれどき

2022.09.10


[2022/9/10 狭山市広瀬台]

いくつかの迷走台風が通り過ぎるうちに、熱暑の日々が去り、ケヤキ並木を揺らすような蝉の声も遠ざかってきました。代わりに、いつの間にか日暮れ近くからの秋の虫の喧騒が足元から響いてきます。今宵は「中秋の名月」を拝む日です。

中秋の名月をめでる習慣は平安時代に中国から伝わったと言われています。
今年は「中秋の名月」が満月と同じ日になりましたが、この二つがずれることはしばしばあります。中秋の名月とは、旧暦(太陰太陽暦)の8月15日の夜に見える月のことを指します。月の満ち欠けのサイクルはほぼ29.5日であること、実際の月の軌道は正円でないという事情から、旧暦の15日が満月になるとは限らないということですが、かつては中秋-秋のまんなか-とされていたこの日が、今ではいよいよ「夏の終わり」とイメージされていることは、温暖化を主とした地球環境の変化の結果でしょう。

夏の終わりには-最近では7~8月の日本は亜熱帯地域並みの高温多湿になっているとつとに指摘されていますから-酷暑の時期がようやく終わり、過ごしやすい季節が訪れてくれるとほっとする人の方が多いでしょうか。けれどもある初老期の人は、「いくつになっても自分には、『夏-夏休み-お祭り騒ぎ』という感覚があって、秋風立つ頃になるとなんか淋しい、物足りない気持ちになるんだよね」と言いました。

たしかに季節の変わり目のたそがれどきに歩く街はずれには、明るい昼間には気付かなかったあれこれがひしめいています。喧しい虫の声の中、しおれてうなだれる向日葵の影絵のような姿のわびしさにはっとしたり、夜空に浮かぶ薄い雲が街の明かりを反射する様子に澄んだ空気を実感したり。

じつは冒頭の写真を撮る前に、清瀬ケヤキ通り沿いのお気に入りのパンパスグラスの背景に十五夜の満月を写しこみたかったのですが、30分待っても空を覆う厚い雲が途切れてはくれませんでした。あきらめて帰宅する途上、ふと振り返った住宅街の空に煌々と光を放つ名月と出会うことができたのです(路上からのアイフォン写真なので望遠にはなっていませんが)。

雲の多い夜空の下のパンパスグラスも、乙な味わいがありますので載せておきます。


[2022/9/10 清瀬市上清戸]