2022.11.10
[2022/11/10 所沢市 航空公園]
― 電車の中で突然胸が苦しくなり息がつまりました。心臓はどくどくと脈打ち、冷や汗で全身がびっしょり。何が起こったのかわからず、このまま心臓が止まってしまうのではないかと恐怖に襲われて、次の駅に着くまでの数分間は地獄のようでした。なんとか倒れ込まずに、ドアが開いたら駅のホームに飛び出してうずくまっていたら、駅員さんが救急車を呼んでくれました。救急車に乗って数分経つと、うそのように動悸や息苦しさは消えていきました。運びこまれた病院で心電図やCT検査を受けましたが、どこにも異常はないと言われてとまどいました。
パニック障害とは、突然理由もなく、動悸やめまい、発汗、呼吸困難感、嘔気、手足の震えなどの強い心身症状(パニック発作)が生じ、そのために生活に支障が出ている状態のことといいます。
初めて経験するパニック発作は、自分はこのまま死んでしまうのではないかと思うほど激しい恐怖感を生じ、自分ではとても抑えきれないと感じるものです。
初回については「理由もなく」生じるものですが、何度か経験すると、また発作が起きたらどうしようかと不安になり(これを「予期不安」と呼びます)、かつて発作が起きた場所や状況を避けるようになります。とくに、電車やエレベーターの中など、そこからすぐには逃げられない閉ざされた空間にはいたたまれず、発作経験後は外出すらできなくなってしまうことが珍しくありません。
パニック障害は決して珍しい病気ではありません。一生の間にパニック障害になる人は1000人に6~9人といわれています。また、男性よりも女性に発症しやすいということも知られています。
パニック障害では薬による治療とあわせて、発症のメカニズムに関する理解を深める心理教育や、少しずつ苦手な状況に慣れていく行動療法が行われます。無理をせず、焦らずに自分のペースで取り組むことが大切です。周囲もゆっくりと見守りましょう。
火事や地震など、突発的な生命の危機に直面した時、多くの人はパニック発作と同様の心身反応が起こります。動悸、極端な息苦しさ(酸素欠乏感)、嘔気・嘔吐や、大声で叫びだしたくなるような不安や恐怖感に襲われることもあります。じっとしていられずに、めくらめっぽうに走りだすこともあります。じつはこうした反応はいずれも、外敵や災害から逃げる際の当然の反応であり、身体に備わった生き延びるためのプログラムといえるものなのです。
ところが人によって、とくに危険な状況にさらされたわけでもないのに、パニック発作のような反応が起きることがあります。生命の危険もないのに、それが脅かされているような不安や恐怖を感じ、身体にもパニック発作と同様の症状が起こることがあります。
何もきっかけがないはずなのにこうした発作に襲われれば、たいていの人は、心臓や肺や脳などの病気を考えます。実際、パニック発作は心筋梗塞などの症状によく似たところもあるからです。
そのため、多くの人はまず循環器科や脳神経内科などを受診して様々の検査を受けます。激しい発作症状が現れたときは、自ら、あるいは周囲が救急車を呼んで病院に運ばれます。ところが、どんなに検査しても身体面の異常がまったく見つからない人もおり、そういう人は、パニック障害の可能性があると言えるでしょう。
パニック障害の原因はまだ完全に究明されたわけではありませんが、やや神経質で繊細な病前性格の持ち主とか、他者の視線を気にしやすく、ほかの人に迷惑をかけてはいけないと過剰に気遣う傾向のある人がなりやすいといわれています。実際に発作が生じる際には、神経や脳内神経伝達物質の一時的な調節困難(誤作動)が生じている可能性が指摘されています。
パニック発作でほんとうに心臓が止まってしまったり、呼吸できなくなることはありません。「パニック発作では決して死なない」ということは、しっかり覚えておきましょう。
しかし、どこかの精神科/心療内科に受診してパニック障害と診断されていても、ひとりでいるときにパニック発作に襲われたとしたら、今回も心臓やどこか身体の病気ではないと確信することはなかなか難しいものです。その人に不整脈や糖尿病などの持病がある場合にはとくにそうです。不整脈は動悸や胸苦しさの原因になりますし、治療中の糖尿病では食事内容や治療薬の不適合から低血糖発作が生じることがあり、これらはパニック発作と似通った症状を示すからです。
一通りの身体的検査で異常を指摘されずにパニック障害と診断されていても、「これはいつもと違う」と思ったら、救急車依頼を含め、内科等への受診はためらわないことが肝心です。精神科や心療内科で精密な身体検査を行うことはできませんので、一年に何度かでしたら検査の害も大きくはないので、納得できるまできちんと診察や検査を受けましょう。精神科的な治療は、身体疾患を否定された上で初めて本格的に行った方が有効性も高まります。
心理的治療
パニック障害では、通常精神療法と薬物療法が併用されます。とくに、曝露療法や認知行動療法という治療法は、薬による治療と同じくらいパニック障害に効果があることが認められています。
薬物療法が効いて発作が起こらなくなったり、起こっても自己対処可能な範囲に収まるようになったら、怖くて遠のいていた外出や事情を知った友人との接触再開など、少しずつ挑戦することも治療の一環になります。ただし、何度も言いますが、無理は禁物です。焦りは発作を起こしやすくします。医師や心理師等と相談しながら、一歩一歩ゆっくりと症状改善に向かって進みましょう。
薬物治療
薬による治療は、「パニック発作を起こさない/起こっても小規模で収束させる」ことが第一の目標です。次いで「予期不安など二次的に生じた不安症状をできるだけ軽減させる」ことも目標になります。
一般に、最初に使われる薬はSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)をはじめとする抗うつ薬の一種です。また、抗不安薬もしばしば使われます。
これらの薬の効果は人によって違うため、効果を確認しながら増減したり薬を変更したりする必要があります。効果を正しく確認するためには、まずは診察時に医師と相談して決めた量と回数を守って服用してみてください。SSRIは比較的副作用が少なく依存性が生じにくいものですが、服用後に何か気になるマイナス面を感じた際には遠慮なく医師に相談しましょう。また、SSRIは一定期間服用後に急に中止すると、「断薬症状」としてパニック発作と似た症状(めまい、発汗、吐き気など)が出ることがあるので注意が必要です。
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬は、即効性が期待できる反面、長期使用すると耐性や依存性が生じることがあります。
パニック障害は比較的薬物療法が効果を表しやすい障害です。「薬に頼りたくない」という思いが強すぎると、緊張度を高め、交感神経を活性化しやすくします。交感神経興奮とあわせて「早く治さなければ」という焦りが重なると、かえってパニック発作が生じやすくなることもあります。
医師や心理士と十分に話し合い、自身の希望を述べたうえで意見を交換し、総合的な治療を受けることが大切です。