2023.2.19
[2023/2/19 清瀬 金山緑地公園]
清瀬の畑は一休み。ブロッコリーやカリフラワーが収穫された後は、しばらく黒茶色の土が静かに横たわっていましたが、ここ数日、深い畝が刻まれるようになりました。
寒さの緩んだある金曜日、例の仲良しシニアが公園の柳瀬川沿いのベンチに座ってなにやら深刻そうな?話をしていました。
白髪老人 (以下「白」) |
つるさん、そんなに落ち込むことないって。 |
つるりん老人 (以下「つる」) |
うん、まあ、落ち込んでるわけじゃないんだけどね。でもね、別の方法があったんじゃないかって考えちゃうんだよ。寝床に入るとね。 |
白 | おいくつだったっけ。つるさんのご母堂は。 |
つる | 今年で満97歳。 |
白 | いいお年だねえ。これまで達者でひとり暮らしなんて、素晴らしいじゃないか。 |
つる | まあね、でもそうは言っても90過ぎて、ここ数年はとくに、あちこち不具合が目立ってきてたんだよ。勘違いから妄想的な発言も出るようになったしね。 |
白 | それは仕方ないことだよ。おれたちだって、同じようなもんだ。この前角の内科受診したら、ちょっと血圧下がりにくいみたいですね、とか何とかいわれちゃって、薬、4種類に増えちまったよ。 |
つる | まあ身体の故障だけならね。 |
白 | うん、まあ、そうだなあ・・・・ でも、いい病院紹介してもらったんだろ。 |
つる | そうだね、知り合いの知り合いに老人内科の専門医がいてそこからの紹介でね。 |
白 | やっぱり、入院は嫌がったのかい。 |
つる | うん、最初はさ、身体が動かないって本人から息も絶え絶えのSOSの電話があったんだよ。それで慌てて駆けつけてみたら、部屋の廊下にうずくまって携帯電話握りしめてうんうん唸ってたんだ。起き上がらせようとしたんけど、何か吐いてしまっていて、あんまり苦しそうだから救急車を呼んだんだ。 |
白 | それはびっくりしただろう。 |
つる | まあびっくりしなかったわけじゃないけど、覚悟していなかったわけでもないんだ。もう2、3年くらい前からさ、そろそろ俺んち来るか、ホームに入るかどっちか考えてくれよって話していたんだが、あたしはまだ一人でやれるって強情張るもんだから。 週2、3回マンションに行って食材の差し入れやら掃除やら一応様子を見てきたんだけどね。物忘れはひどいし、難聴だから、何か言って聞かせてもちゃんと理解してはいないんだろうなと思ってはいたんだよ。その都度必ず大きな字でメモは書き残しておいたけどね。 夏場とか脱水気味になって寝込んでたこともあったから、母親の家に行くときは、いつもどきどきしながら呼び鈴鳴らしてたってわけさ。 |
白 | なるほどね。でもつるさん、結構まめにサポートしてたじゃないか。 |
つる | そうだけどさ・・・・ |
白 | なにくよくよ考えてるんだよ。監獄送りにしたわけじゃないんだから。 |
つる | それがさ、去年いくつか老人ホームに見学に行ったあとにね、「今回のホームは結構よかったじゃないか、食事もまずまずだったし」って言ったらさ、「いやよ、あんなとこ入ったらカゴの中の鳥か牢屋みたいじゃない」ってさ。コロナで面会制限してるとこ多かったしね。 |
白 | ・・・・そうなんだ。カゴの鳥ねえ。確かにねえ。 |
つる | 救急車を呼んで、わりと設備のいい病院に搬送されて、真夜中だったけど、脳から足先まで一通り検査してもらって、おっきな異常はないが、脱水と栄養状態不良があるから、体力回復のための入院考えますかって言われたから、お願いして、翌日市中の別の病院の「地域包括ケア病棟」ってとこに入院させてもらったんだ。その時母親は入院も仕方ないってあきらめたような態度だったんだがね。 |
白 | 何とか病棟って、よく知らないけど、それで体調回復したんだろ。 |
つる | 1週間くらいでだいぶ落ち着いてはきたらしいんだ。らしいっていうのは、やっぱりコロナで面会制限があって、看護師さんから日々の状況を聞くしかなかったからさ。 |
白 | うん。 |
つる | それでさ、3週目くらいに病院から電話があってね、室内安静を守ってくれない、食事をとらない、言うことをきいてくれないって。 |
白 | 病院の対応に何か問題あったんじゃないか。 |
つる | 多少はあったかもしれないけど、大体他人に指図されるのが死ぬほど嫌いな人だから。さもありなん、って感じかな。 |
白 | うん。 |
つる | それでさ、主治医と話して初めての面会が入院してちょうど3週目。 部屋に行って話しかけたら、「あんた誰?」って言うんだ。少し元気になったようだから、ホームかもう少しリハビリできる病院かどちらかに移ろうよ、って話したんだ。そしたら「どこ行ったっておんなじよ。」って、てんで話にならないんだ。帰れ、帰れって言うだけで。そこで決めたんだよ。 |
白 | ホームじゃ無理なんじゃないかって? |
つる | その通りだよ。 |
白 | それで老人医療専門医の紹介で認知症の病院へと。 |
つる | そう。救急車呼んでから1か月目にね。 |
白 | ・・・・でもまあ、順当といっていいんじゃないか。 |
つる | 順当、ねえ・・・・ しかし最初の病院から移動するのに福祉タクシーを依頼したんだけど、車中で介護者に話すことと言ったらね。 |
白 | 想像できるよ。 |
つる | あんたたち、ぐるになって私をどこかに閉じ込めて殺す気ね。いくらもらったの、ってさ。 |
白 | ・・・・・ |
つる | まあ、入院先はわりと活気のある病院で作業療法やレクリエーションもしっかりやってるところみたいで、そういうこと母親は好きだから、そのうち慣れてくれるって思ってるけどさ。 |
白 | きっとそうなるよ。面会制限もこれから緩くなりそうだしさ。 |
つる | 外出や外泊ができるようになったら、肉が好きだからまたステーキハウスにでも連れて行ってやれたらと思ってるよ。 |
白 | そうだよ、きっとそうなるよ。 |
つる | でもさ・・・・ |
白 | つるさん、そうやって下向くなよ。 |
つる | 俺もあんなふうになっちまうのかなって思うとさ。 |
白 | ・・・・ |
つる | 長生きするのも考えもんだな、なんてさ、そんなふうに思う自分も嫌でさ。 |
白 | ・・・・みんなおんなじだよ。ほら、つるさん、下向くなって。こんないい陽気なんだから、空見上げてみなよ。 |
つる | いい天気だなあ。 |
白 | いい天気だ。 |
つる | あったかいなあ。 |
白 | あったかいなあ。 |
つる | ・・・・・ |
白 | ・・・子ども叱るな来た道だもの 年寄り笑うな行く道だもの。 |
つる | ・・・いい言葉だね。誰の作だっけ? |
白 | 妙好人。読み人知らずだってさ。 |
つる | どっちが先にぼけるかなあ。 |
白 | おれの方さ。 |
つる | ちがうよ、こっちの方だよ。 |
白 | 来た道 行く道 二人旅 これから通る今日の道 通り直しのできぬ道。 なかよくぼけていこうかね。 |