ふじみクリニック

サイコオンコロジーと緩和治療(1)

2023.11.25


[飯能市 里山 2023年11月]

がんによる死亡とがん診断後の生存期間

厚生労働省「人口動態統計(確定数)」(2022年)によると、死亡の原因で最も多いのは「がん」(注)でおよそ4人に1人が「がん」で亡くなっているということです。その「がん」の種類別死亡率で最も多いのは、男女とも「気管、気管支及び肺」であり、以下、男性では「胃」、「膵臓」、「結腸」、女性では「膵臓」、「結腸」、「乳房」と続いています。

男女とも上位はほぼ共通していますが、性別の特徴として、男性では「前立腺」、女性では「乳房」、「子宮」がそれぞれ一定の割合を占めています。

注:「がん」とひらがな表記するときは、固形がんや造血器腫瘍(白血病などの血液がん)すべての悪性腫瘍を総称しています。「癌」と漢字表記するときは、身体の表面や臓器の粘膜などを覆っている上皮細胞の悪性腫瘍を指しています。胃癌、肺癌、肝臓癌などの頻度の高い「癌」のほかの固形がんとしては、骨肉腫などの骨や筋肉をつくる細胞組織に発生する「肉腫」があります。

また、がんの罹患率は高齢になるほど高くなるので、「長生きするほどがんで死んじゃうんだ」などと暗い考えが頭に浮かびます。しかし、がんの治療もまた目覚ましい進歩を遂げている医学・医療分野の一つです。

厚労省の資料[がんに関する統計 資料3-1]によると、1993年~1996年にがんと診断された人の5年相対生存率は男性45.1%、女性54.8%。部位別では、女性の乳房と子宮が70%以上で高く、胃、大腸、直腸、 結腸が約60%~70%、肝臓と肺は20%前後で低いとされています。

さらに新しい統計情報を参照すると、2009~2011年にがんと診断された人の5年相対生存率は男女計で64.1 %(男性62.0 %、女性66.9 %)となっています。診断されたときのがんの種類や進行具合によって異なりますが、がん全体での10年相対生存率は59.4%と計算されており、がんが見つかった人のおよそ6割が10年後も生きていたということになります。この元になったデータは10年以上前にがんが見つかった人のものですから、その後の治療技術の進歩を考え合わせると、これからがんと診断される人の場合には、もう少し改善していることが予想されるわけです。

つまり、「がん」と診断されれば、もう人生は残り少なく、したいことの一つもできない生活を強いられるということではなく、適切な/希望する治療を受けながら、有意義に過ごすことができる時間が相応に与えられるということを知っておきたいものです。

サイコオンコロジーと緩和ケア(医療)

生きる時間を有意義に過ごすためには、身体の治療だけでなく、こころのケアも不可欠です。そのために、サイコオンコロジーと緩和ケアという医療・医学領域が生まれました。

1)サイコオンコロジー

サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)とは、「がん患者」の精神面の研究をおこなう精神医学・心理学(サイコロジー:Psychology)と、「がん」の身体医学的研究をする腫瘍学(オンコロジー:Oncology)を組み合わせた造語です。わが国では「精神腫瘍学」と訳され、1980年代に確立した新しい学問/診療領域です。

2)緩和ケア(医療)

サイコオンコロジーの隣接領域ですが、それよりもずっと早い時期に生まれた「近代ホスピス」の設立に併せて誕生したのが「緩和ケア」です。緩和ケアは、がんおよび難治性疾患に伴う心と身体のつらさを和らげることを目的としています

例えば、がんになると、さまざまの身体症状やその治療のことだけではなく、中断せざるを得なかった仕事のこと、将来への不安などのつらさも経験するのが普通です。緩和ケアは、がんに伴う心と身体のつらさを和らげるために、痛みを軽くする身体的治療、不安や恐怖感を和らげる精神医学的介入などを研究し、一人一人の患者さんへの対応法を開発する臨床領域です。

がんや難病と診断されて落ち込むことは通常の心理的反応です。診断を受けたときには、すでに痛みや息苦しさなどの症状がある場合もあります。ときには診断を契機として、深刻なうつ状態やうつ病を呈することもあります。サイコオンコロジーを学び、緩和ケアの領域で働く医師や看護師は、そのような心の状態や心身の症状に対応します

時々誤解されることがありますが、緩和ケアとは、死期が差し迫った時に初めて適用されるものではなく、がんや難病と診断されたときから始まります。身体的治療をあきらめることなく、それと並行して、つらさを感じるときにはいつでも受けることができます。