ふじみクリニック

老いてなお うまい珈琲 - 流動性知能と結晶性知能 -

2024.07.31


[2024.7月 上清戸]

今年も酷暑の時期到来です。梅雨の時期の大雨はここ数年の九州,本州西部地域から,今年は山形,秋田県など日本海側の東北地域に移行しました。すべてを地球温暖化に帰して説明できるのかどうか素人にはよくわかりませんが,いずれにしても私たち人間の活動が地球に様々な(ネガティブな)変化を加速させているということは間違いないのでしょう。

さて,政治を扱うのは本欄の範囲外ですが,最近のニュースの中で筆者の関心を引いたのは,米国大統領バイデン(Joseph Robinette Biden Jr.)氏が次期大統領選からの撤退を表明したというものです。バイデン大統領が後継指名したハリス副大統領とトランプ前大統領のどちらが適格という政治談議はともかくとして,またあの二人の高齢者の対話に耳を傾けてみましょう。

つるりん老人
(以下「つる」)
いやはや,エアコンの利いた部屋から一歩外に出るとサウナに入ったようだね。
白髪老人
(以下「白」)
そうだよ。だからさ,今日はここで一服ということにしたんだよ。
つる いや,おれも清瀬に棲んでもう長くなるけど,駅のこっち側に来るのはせいぜい「ふれあい通り」の突きあたりくらいまでだから,そこからすぐ近くにあるこの喫茶店に入ったことはなかったよ。静かでいい雰囲気だね。すぐ隣は清瀬高校なんだ。
そうだろ,ここ,正確には「炭火焙煎 珈琲俱楽部 宮越」っていうんだ。ほら,カウンターの向こうでドリップしているおばあちゃん(おれたちもおんなじ爺さんだけど)の淹れてくれる珈琲がすごくうまいんだよなあ。
つる おれたちの年になると耳も目も,そして鼻(嗅覚)も弱くなるから,同じようにいい香りのコーヒー淹れるなんてことは,たいへんなことだよな。
お,できたみいだ。久しぶりに来たから愉しみだよ。
つる 白さんは酸味のあるモカが好きだったね。
そう仰るつるさんはいつものマンデリンだね。
青磁のカップになみなみと注がれた熱い珈琲が運ばれてくる。
珈琲を淹れてくれた店主(?)のご婦人は、微笑してどうぞ、と小さく一言だけ言い置いてテーブルを去る。
つる なんか・・・
上品だね。
つる いいよね。
だけどさ,年取ると目や耳だけでなく,足腰も弱くなるし,記憶力も悪くなる一方で悲しくなるよ。
つる 仕方ないさ。徐々に短く溶けていって,静かにふっと消えるろうそくの炎みたいに旅立ちたいものだね。
そうさね。だけどさ,政治家のおっさんたちなんて,70過ぎてますます意気軒昂で,していることの是非はともかく,あのエネルギーだけは称賛に値するよね。
つる そういえば,アメリカの大統領選,現職のバイデンが次期候補を降りたってニュースがあったね。
うん。トランプとの討論会で言葉が詰まったり,ロシアのプーチンとウクライナのゼレンスキーの名前を取り違えたり,それ以前には演説の壇上や飛行機のタラップでよろめくようなエピソードが何度もあった。
つる おれもテレビでその討論会をみたけど,絶句しちゃったり,言葉に詰まったり,あれじゃ確かにトランプの格好の餌食だったよ。
御年81歳か。
つる 日本でも新潟県のある町で,36年間町長を継続して89歳になってようやく次回の選挙に出ないって表明したケースがあったようだね。
その町長さんのことは知らないけど,バイデンの撤退は当然だと思うよ。おれの持論では議員さんという職務は,特別の理由がなければ70歳くらいの定年制にすべきだよ。
つる あはは,おれたちも埒外だ。べつに構わないけどね。
だけどさ,若い人たちとたまに話す機会があるけれど,体力や感覚器の性能はともかく,彼らの論理的思考力とか,相手の感情を読み取る力とか,おれ,決して負けてない様に感じるんだけど,それも老いによる不正確な誤認―自惚れにすぎないのかな。
つる いやいや,白さんは立派なインテリだよ。いろんなこと知ってるだけじゃなくて,どんな物事でも,きちんと賛否両論踏まえて話すじゃないか。
おだてても珈琲代は割り勘だよ。
つる 自分の若い頃に比べると,たしかに記憶力や計算力は見る影もないけれど,まあ大きい数字は計算機使えばいいし,そんなに新しいこと覚えなくても生きていけるしね。せいぜいスマフォの使い方くらい習っとけば。それもわからないときは,だれかに聞きゃいいし。
つるさんだって,そのスマフォ使ってさっさかいろんなことインスタントに調べて,まったくたいしたもんだよ。
つる まあ・・・内輪誉めはそのくらいにしとこうか。しかし年取って身体が弱ったり,ぼけていったりするのは事実なんだろうけど,こうやっていろんな話が続けられるのは,おれたちの脳みそにどんな能力が残っているからなんだろう。
つるさん,スマフォで,「知能」って調べてみて。
つる おっと,新たな討論素材だね,ちょっと待って……
うわあ,検索するとたくさん出てきていちいち見るの大変だよ。こういうときは,例のChat GPT なんかが最適なツールなんだろうね。……まあ,これくらいにしとこうか。一つ読んでみるから。
「知能とは,ウェクスラーによれば,特定の(『計算力』のような単一の)能力ではなく,各個人が目的的に行動し,合理的に行動し,自分の環境を能率的に処理する総合的な能力。すなわち知能とはパーソナリティ全体としての機能であり,認知能力の概念に含まれる諸要因以外の不安,忍耐力,動機,目的意識など人格特性にも影響された問題解決の総体的能力」
だってさ。ちょっと長いね。
人格特性や目的意識が関係するんだったら,人格の成熟や対人関係の特徴も関係するってわけだね。
つる なるほどね。例えば年とっても,やりたいことがあって,友人たちと関わりながら相互に刺激しあって生活していける人は知能も維持されるってことかな。
こっちのスマフォで調べると,「流動性知能」と「結晶性知能」という用語もあるらしい。
つる あ,このページにもあるよ。
「キャッテル(Cattell)によると,流動性知能とは,新しい情報を獲得し,それを迅速に処理・加工・操作する知能。暗記力・計算力・直観力などが該当する。流動性知能は25歳ごろにピークとなり,65歳前後で低下がみられるという。一方,結晶性知能とは,経験や学習などから獲得される知的能力であり,言語力に強く依存する。洞察力,理解力,批判や創造の能力といったものが該当する。結晶性知能は,経験や学習によって20歳以降も上昇をつづけ,高齢になっても安定しているという。」
こっちのページの記述だと,「流動性知能とは,事前の学習(正規・非正規の教育など)や文化化に最小限しか依存しない,推論やその他の精神活動の基本的なプロセスを含む。ホーンは,それが形のないものであり,さまざまな認知活動に『流れ込む』ことができると指摘している。」一方,結晶性知能とは,「学習した手順や知識を含む。それは経験と文化化の影響を反映している。ホーンは,結晶性能力は『経験から沈殿したもの』であり,文化の知性と結びついた流動性能力の過去の適用の結果であると指摘している」
つる うん,おれたち経験量だけは自信あるもんな。
バカなこともたくさんしたけどね。
つる うん,バカだけど面白かったことがいっぱい。多少は「結晶性知能」の形成に役立っているかもしれない。
バイデンとトランプの,年齢ではなく「知能」はどうなんだろう。
つる わかんないね。だって彼らが(日本の政治家も)公式の場で発言することは,官僚や取り巻き連中がこねくり回した作文であることがほとんどだから。でも,どちらかというとトランプさんの方が本音を言ってるみたいだから,AIの測定対象には格好かも。
いずれにしても,自分の体力・知力の衰えを自覚できるうちに,諸事始末をつけておくのが大切だってことか。
つる それが結構難しい。
そうだよなあ,けれど,お年はわからないけれど,いくつになっても,こんなに美味しい珈琲淹れられるんだから,あのおばあちゃん,そう簡単に引退してもらわないでほしいところだな。
つる ほんとにそうだなあ。結晶性知能バンザイ珈琲倶楽部バンザイって言いたいなあ。