ふじみクリニック

「適応障害(Adjustment disorder)」-自分を知ること

2022.06.05


[2022.6.3 清瀬市上清戸]

 
いよいよトウモロコシの季節です。収穫時期をずらすために、芽吹いたばかりの小さな苗の列もあれば、中くらいに育ったものから、あと1週間もすれば直売場に並ぶだろう実をつけたものまで様々の成長具合のトウモロコシが畑一面に育ちつつあります。

「適応障害(英:Adjustment disorder)」とは、以前は「心因反応(英:Psychogenic reaction)」と称されていた病態の一部です。「一部」というのは、従来の心因反応というカテゴリーでは、明らかな「心因」に引き続いて生じ、その「心因」が去ってしまえば再び元の精神状態に回復するものすべてを包含していたからです。つまり、心因反応の症状としては、不安やうつ状態のみならず、躁うつ気分変動、幻覚や被害妄想などの精神病症状も含まれていたわけです。しかし現代の国際診断基準では、適応障害は主に不安・抑うつ状態や、それに伴う行動の異常を指し、妄想などの精神病症状が目立つときには、急性一過性精神病性障害(ICD-10;ICD-11では「急性一過性精神症」)という診断に振り分けられることになっています。

 

細かいことはさておいて、心因またはストレス因(本コラム「環境・個人によって異なるライフストレス1」をご参照ください)によって様々の症状や苦悩が生じるということは古くから知られていました。こうしたストレス関連障害の成因として、かつては個人の側の問題(ストレス対処力の脆弱性)が重視されていましたが、近年は環境の側の問題(ストレスの有害性)の方が強調される傾向があります。個人が属する会社や組織の側に、様々の歪みやハラスメント行為が沢山あるということが明確化されてきたという点では、働く人々にとって好ましい時代の変化というべきでしょう。

しかし、職場や集団のストレスが明らかになったからといって、すべてをそれらのせいにするだけでは明るい未来はやってきません。誰が見ても理不尽なパワハラや労働時間の搾取(サービス残業等)について異議申し立てすることはできますが、仕事に限らず、全くストレスフリーの生活や社会活動というものはありえないからです。

自分の苦手なストレスや対人関係の特徴を自覚すること、現在さらされているストレスの質や大きさを推し量り、そのために眠れない、食欲が落ちた、職場に行こうとすると動悸がするなどの不具合(反応性症状)が生じているか否かを随時自己モニターし、どのように対処したらよいか自らあるいは信頼できる人と相談してみることなどが大切です。ストレスの影響は、その大きさや困難性に相関するだけではありません。その課題(職務)に関心があり、その達成に価値を置くことができる場合には「やりがい感」の醸成につながり、その人の力は最大限に発揮され、人は大きなストレスにも耐えやすくなるというものです。逆に言えば、気乗りしないが、生活のため、あるいは他にやりたいことも見つからないので、仕方なく上役の指示に従い、義務的に取り組んでいるばかりの仕事である場合には、そこから受けるストレスは見かけ以上に大きく、扱いにくいものになるともいえましょう。

心療内科や精神科を受診して「適応障害」と診断された際には、何がストレスとなっていたかを主治医と吟味し、ストレス軽減策と併せて、ストレス対処力向上の方法についてもしっかりと検討しておくことが、回復と再発予防のために重要です。