ふじみクリニック

双極性障害(躁うつ病)について

2022.07.11


[2022.7.10 川越市小室]

うつ病と双極性障害

うつ病やうつ状態についてはすでに本欄(2021.9.3)で解説しています。双極性障害とはかつては躁うつ病と呼ばれていた病ですが、うつ状態(気分が落ち込んで活気を失った状態)と躁状態(気分が高揚して活動的となった状態)の二つの極の間で心身の状態が往復するような複雑な病態を示します。

生涯うつ状態だけを示す病(うつ病)は男性で10人に一人、女性で5人に一人くらいが一生のうち一度は経験する、珍しくない病です。ところが、うつ病のように見えて実は双極性障害である人も意外に少なくありません。こちらは男女差なく、およそ100人に一人くらいは一生のうち一度は双極性障害になると言われています

双極性障害の診断の難しさ

双極性障害の患者さんの診断にはいくぶん難しい要素があります。本来双極性障害を持った患者さんでも、うつ状態に陥った時にはつらい症状を自覚しやすく生活機能も停滞するので、自発的にあるいは周囲が勧めて受診につながることが多いのですが、躁状態のときは著しい社会的逸脱行為(興奮し暴力的となって他人と喧嘩したり、ふだん堅実で浪費などしたことのない人がいきなり金遣いが荒くなり、借金を重ねたりするなど)が現れない限り、本人はむしろ「大して眠らなくても仕事がはかどり好調だった」などと、その時の方が自分の本来の調子と捉えてしまうことがしばしばあります。そのため、軽い躁状態では受診につながらず、またうつ状態に移行して受診した際にも、「調子よかった時期」については自分からあえて話してくれないことがまれではないのです。

うつ病と双極性障害の治療の違い

しかし、双極性障害とうつ病では、治療目標も治療薬も異なる点、注意が必要です。うつ病ではうつ状態からの回復(平常の気分や気力、心身の活動性の回復)が治療目標となりますが、双極性障害では、「躁・うつの波をどのようにコントロールして気分や体調の振幅を小さくするか」が最も重要な治療目標となります。双極性障害患者のうつ状態に対して抗うつ薬を使用して、一時的に効果があっても、その後明らかな躁状態を誘発してしまったり、あるいはうつ状態の頻発化を招いてしまうこともあります。双極性障害患者の治療薬として第一に気分安定薬が用いられるのはこのためです。

うつ病と双極性障害を区別するためには

うつ病と双極性障害を見分けるためには、過去に軽くても躁状態と思われるような時期があったかどうか、気分障害や精神病性障害の家族歴があるかどうか、推定初発年齢などを丁寧に聴取する必要があります。

例えば、うつ状態を呈して初診した患者さんには、うつ状態になる前に、ふだんとはちょっと違った次のような体験の心当たりがないかお聴きします。

・睡眠時間が短くても、大して疲労を感じることなく頑張れた
・発想豊かになり、よいアイデアがいくつも浮かんできた
・初対面の相手に対しても、臆することなく堂々と話すことができた
・仕事や勉強がトントン拍子に進み、バリバリ働くことができた
・どうしてかわからないが、気分爽快な日が続いた
・その一方、イライラすることも多く、家族や同僚に不満をぶつけることがあった

これらの体験はもちろん、普段のその人の性格傾向や行動パターンとの比較において病的度合いを評価するものですから、なるべく家族やその人をよく知る人からのお話も同時にお聴きすることが肝要です。どんな病気でも「正確な診断」が治療の第一歩ですから、受診した際には現在の症状や悩み事だけでなく、ここ数年の心身の状態の推移についても医師にお話しすることをお勧めします。

双極性障害の経過

躁状態は急激に起こって進行が早く、治療を受けなかった場合には2~3か月くらい続きます。自他ともに見過ごされやすい程度の軽い躁状態やうつ状態は、未治療だと半年以上続くこともめずらしくはありません。
また、双極性障害では、躁状態やうつ状態が一回だけで済むことは滅多になく、何度も繰り返すことがふつうです。躁とうつが交代したり反復したりしますが、症状のある時期を通算してみると、うつ状態の期間の長い人が多いと言えます。患者さんはうつ状態のときだけ受診する傾向があること、そのうつ状態の期間の方が長いことなどによって、双極性障害の患者さんが単なるうつ病と誤診されてしまいがちなのです。

さらに、双極性障害の患者さんでは、うつ状態や躁状態がよくなっても(躁うつどちらの症状もない時期を寛解状態といいます)、予防治療を継続しないと再発するリスクが高いことが知られています。再発を何度も繰り返すうちに、社会的信用や財産、職を失ってしまったり、支えきれずに家族がバラバラになってしまったりする事態も起こりえます。双極性障害は、うつ病以上に予防治療の継続が非常に大切な病態と言えるでしょう。

参考サイト
2022年1月の本欄[「こころの病」について調べるのは、どのサイトから]に、参照可能な優良サイトをいくつかあげました。その他にも新たに病気や障害の理解を深めるサイトが登場しています。今回取り上げた双極性障害に関しては、「すまいるナビゲーター」が充実していますので、ご参照ください。